Nishiyamajisakusyoten
箔-京都
和紙の上にのりを伸ばし、1枚1枚、素早く金箔を乗せていく。箔は、鼻息ひとつで舞い、指先で撚るようにすると消えてしまうほど繊細なのだという。そのためか、風が通らないように閉め切られた工房内はひんやりとしていて、少し緊張感がある。
貼り付けた箔を上からトントンと叩くと、ひび割れたような表情が加わった。
金・銀を中心に揃う、多彩な色。素材や、貼り方、手の力加減。箔は組み合わせによって奥行きを生み、さまざまな顔を見せてくれる素材だ。そんな箔表現を専門とするのが「西山治作商店」の西山大介だ。
西山治作商店は、先代より「引箔(ひきばく)」の工房として、西陣織の伝統を支えてきた。引箔とは、箔を施した原紙を細かく断裁し、糸に撚らず平箔のまま帯地にしていく技法のこと。1本ずつヘラにかけて引きながら織り込んでいくことから、この名前が名付けられたという。西陣織の帯地にとって、象徴の一つでもある。
2代目である大介は、そんな伝統的な箔の技術を生かしながら、新たな表現に挑んでいる。
大介にとって、生まれた時から自宅は箔の工房。子どもの頃には「遊び半分」で、父・治作の作業を手伝った記憶もある。
一度はテキスタイルの職に就き、家から出たものの、当時はバブル期の最中。「もっといい仕事があるぞ」と父に呼び戻され、箔の仕事を始めた。しかし、時代とともに織物業界も低迷。単価の高い引箔を使う問屋が減った。「何かしないと続けていけない」と思った大介は、これまで扱うことのなかった素材に目を向けるようになる。
「技術は父の代からそんなに変わってないんですけれど、それをいかに組み合わせていくか。新しい素材に対してどんな接着剤やコーティング剤がいいのかなどを研究するようになったんです」
工房内には、大介の実験の跡が見てとれるものがたくさんある。レザーに箔で輝きを与えたもの。あるいは、ジャクソン・ポロックを彷彿させる抽象絵画のようなもの。箔による創造は、組み合わせによって無限なのだと気付かされる。
大介の地道な実験が実を結んだのは、つい最近のこと。若い世代の工芸士との交流がきっかけで、コラボレーションが始まったのだ。
現在は木工を手がける「erakko by 柴田漆工房」の柴田明とともに、アートパネルを制作中だ。銀箔に熱を与えて深い青に変色させたり、木彫に「焼き箔」の技法を組み合わせ、陰影をつけたりと、その表現はバラエティに富んでいる。大介にとって新たな試みだが、知識と技の蓄積がつながり、かたちになる手応えを感じているという。
「西陣織の場合は、材料をつくって提供するまでが仕事でした。でもこうしてかたちになるまで見届けられたり、見た人から直接『ええな』とか言ってもらえたりすると嬉しくて。またつくろうかという気持ちになるんですよね」。
誰と共作するにしても、大事なのは職人としてのこだわりではなく「喜んでもらえるか」だと大介は話す。見た人の喜ぶ顔が、いま一番のモチベーションになっている。
西山治作商店
Nishiyamajisakusyoten
◉西山 大介(にしやま・だいすけ)
西陣にある箔工房「西山治作商店」2代目。西陣織の帯地素材「引箔」をつくることから職人としてのキャリアをスタートさせ、その後さまざまな素材に転用できる箔表現の研究を続ける。「KYOTO LEATHER」とコラボレーションし革製品に箔を施すなど、新たな取り組みを行う。