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嵯峩螺鈿野村

Sagaraden-Nomura

螺鈿-京都

虹色に輝く繊細な細工

螺鈿(らでん)とは、漆器の加飾技法のひとつだ。貝殻の内側にある虹色に輝く真珠質の部分を薄く切り取り、漆地や木地などに埋め込む、もしくは貼り付ける。日本には奈良時代に唐から伝わり、正倉院には螺鈿が用いられた宝物が数多く所蔵され、平安時代には平等院鳳凰堂や中尊寺金色堂などの建造物の内部装飾にも用いられた。その輝きと細工の芸術性の高さから、今日に至るまで長らく人々に愛されている。

「嵯峩螺鈿 野村」は京都にて1910(明治43)年創業。1928(昭和3)年に現在の地である京都・嵯峨に移転し、螺鈿の製造から店舗での対面販売まで一括して行う全国でも数少ない工房だ。螺鈿づくりの工程は、生地制作から仕上げまで60から100にも及ぶ。漆を塗る、0.1mm以下まで貝を研磨する、薄くなった貝を針で形に合わせて丁寧に切り出すなど、どれも繊細な手作業だ。貝がいちばん美しく輝きを放つ箇所を探り当て、一定方向に揃えることで、輝きの精度を高めていく。出来上がりまで数年を要することもあるそうだ。

 

普段使いできるジュエリーが人気

嵯峩螺鈿野村では、茶道具の棗(なつめ)や香合、リングやネックレスなど、さまざまな螺鈿作品を手掛けている。伝統工芸士の野村守、娘ののむらまり、息子の野村拓也の三人が制作や業務全般を担う。工房の理念は「心が穏やかになるものを作ります」。

「螺鈿は見れば見るほど角度によって色の変化があるので、いつのまにかすーっと吸い込まれていくのも魅力です。作品を手に取っていただき、心が穏やかになるような時間を持ってもらえたら嬉しい」と守は語る。

守が制作した独楽文様棗(こまもようなつめ)は2018年に「日本伝統工芸士会 会長賞」を受賞。熟練の技巧が結晶した工芸作品で名を馳せる一方で、螺鈿をふんだんにあしらったシルバーリングを中心としたジュエリー類もオンラインショップで好調な売れ行きだ。

「始まりは『かわいい』でも、『きれい』でもいい。美術館に飾られているような敷居の高いものと思われないように、今のライフスタイルにあったものをうまく提供し、とっかかりやハードルを下げられればと思っています」。

そう語る守の思いが実を結ぶように、普段使いできる螺鈿のジュエリーは若い世代を中心に人気を博し、新たな客層にリーチしているようだ。さまざまな客層からフィードバックを得ることで、事業展開にも幅が生まれた。フランスのインテリアの見本市「メゾンオブジェ」や「ミラノ万博」に出展するなど、海外での活動も積極的に行っている。

 

三人の布陣で挑むものづくり

守に次世代に伝えたいことを尋ねると、「あんまり一生懸命仕事しないこと。人間は8時間以上何かに集中するのは難しいのではと思います。ここからここまでと決めたら、趣味でもスポーツでも好きなことをしたらいい。そのほうが長く続くし、いろんな興味が湧く。今でもランニングしながらおもろいことを探してますよ」と茶目っ気たっぷりに語った。

まりは前職で学んだスキルを活かしながら父のプランをもとに事業計画書を作ったり、ホームページを制作するなど、経営戦略に携わりながら、仕事や家庭に忙しい大人の女性を応援するべく、自身のブランドを立ち上げる。現在6歳児と4歳児の子育ての真っ最中だ。

「子どもが生まれたこともあり、環境のことを考えるようになりました。うちの工房でも何か形にできたらと、十年のスパンで考えている最中です。子育てもそうですが、何事も自分一人だけではできないので、今自分のできることをすこしずつ積み重ねて行こうと思います」と話す。
拓也は大学卒業後一部上場企業に就職したのち、家業に戻る。

「螺鈿づくりだけではなく、商品の説明、ブランディング、プロモーションもします。作るものは伝統的でも、働き方や考え方は現代的に変わることが伝統工芸の分野でも求められています。何を変え何を変えないか、という選択と集中をしないといけない」と、俯瞰して未来を見据える。

4.2万人ものフォロワー(2022年9月現在)がいる拓也のTwitterのタイムラインには、ジュエリーを手にしたユーザーからの喜びのコメントが並び、リプライも積極的に行う。作り手としてユーザーとの会話が励みになるようだ。

守は先代から家業を継ぐよう言われたことは無く、自身も子どもたちに継いでほしいと伝えたことは一度もないと言う。三人の話を聞いていると、自身のスキルや持ち味を生かし自主的に事業を展開しながら、お互いの感性や志を尊重し連携してものづくりをする布陣がうかがえた。そのしなやかさが美を守り育て、人々の心に穏やかな時間を届けていくのだろう。

 

◉嵯峩螺鈿野村(Sagaraden-Nomura)の作品はこちら

嵯峩螺鈿野村

Sagaraden-Nomura

◉野村 守(のむら・まもる)
1958年京都府生まれ。20歳で家業の仕事へ。工業試験所で漆の技術を学び、塗から加飾(螺鈿・蒔絵)全ての工程を一人で行う。2001年「伝統工芸士」認定。2015年ファッションとしてだけではなく、世代を繋いで行くおまもりでありたいという願いから「MAMORI」ブランドを立ち上げる。

 

◉のむら まり
1984年京都府生まれ。伝統工芸の商品開発運営の仕事を経て、2011年家業に戻る。2014年ばらをモチーフにした螺鈿ジュエリーが、「京ものユースコンペティション」準グランプリ受賞。仕事や家庭に忙しい大人の女性を応援するブランドとして、MARI NOMURAを立ち上げる。

 

◉野村 拓也(のむら・たくや)
1987年京都府生まれ。大阪大学外国語学部卒。アパレルメーカーで5年間勤務後、2016年家業に戻る。ロサンゼルスでの留学経験を活かし、海外顧客獲得のための販路開拓や商品開発を行う。海外旅行者の対応や体験工房の講師の他にも、ホームページやオンラインストア、SNSの管理などを行う。

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