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中村譲司

George Nakamura

京焼-清水焼

雨音に身をゆだね、土と向き合う

 

 

重厚な黒を基調とした厚手の飲み口の茶碗、ごく淡い翠(みどり)の線の細い花器、道具を装飾することで美術品へと昇華させたオブジェ。中村譲司の作品は多様性に富み、一見すると同じ作り手のものとは思えないほど多彩な表情を持つ。

小学生のとき自由研究で実家が営む蕎麦屋にあった割り箸を使って船の貯金箱を作ったことからものづくりに興味を持ち、美術高校、美術大学に進学。卒業後は宇治の窯元で研鑽を積み、20代後半に独立した。

作業をする工房では音楽やラジオは流さず、年代物の電気ロクロが回った時に出るシンギングボウルのような音がかすかに聞こえる。無音に近い方がこねるときの土の音や感触に敏感になり、自身の感覚が研ぎ澄まされるという。「雨の日は横に流れている水の音がいいんです」。雨の日のほうが、作業がはかどるそうだ。水の音、土の感触、自身を包む空間に身を委ねるかのように、京都は清水で作陶を続けている。

 

暮らしになじむ「きれい」をもとめて

 

工房では中村自身の作品に加え、より実用的な窯商品を作るG-studio名義の器も作られている。「日々の暮らしに溶け込む器」というG-studioのコンセプトには、大阪の梅田からほど近い都心で生まれ育ったバックグラウンドも由来している。マンションなどの現代の住空間では、一作品として際立ってしまうような器より、暮らしに溶け込む器の方がいいと思うに至った。

「きれいなものが好きなんです。きれいなものが空間にあると、毎日がちょっといいですよね」

土に任せて器を作るというよりは、土をコントロールするタイプと自身を語る中村が作る器はどれも、形、色彩、手に取ったときの感触、それぞれが絶妙なバランスを放つ。マンションでも和風建築でも、それぞれの暮らしにすっとなじむ姿が目に浮かぶ。

 

変化のとき 育まれ続ける感性

 

 

「四十にして惑わず」と言うが、四十代を迎え中村は「おそらく何かが変化しているときで、何を話せばいいのか戸惑っている」と過渡期にあることを正直に口にした。これまで都会暮らしだったが、コロナ禍で人出の多い場所に行けなかったこともあり、琵琶湖にキャンプにいくなど、自然と触れる機会が増えた。夜の月、琵琶湖の水面のかすかな波といった自然の表情に心惹かれ、自身が美しいと思うものも少しずつ変化した。

コントロールされた無機質なものから、フリーハンドで1本1本竹串で無数に線を引き文様を施した最新作「銀雨彩」のように、有機的とも言える試みも取り入れている。変化は迷いを生じさせながらも、新しい風も育んでいるようだ。十年後、二十年後に作るものは、今の作風からは想像すらつかない器なのか、あるいは原点回帰するのか。たどり着く先は未知数だが、自身の感覚と真摯に向き合い続ける中村が生み出す器のある風景は、日々を豊かにしてくれることだろう。

 

◉中村譲司(George Nakamura)の作品はこちら

 

中村譲司

George Nakamura

◉中村 譲司(なかむら・じょうじ)

1981年大阪府生まれ。京都市在住。2003年京都精華大学芸術学部造形学科陶芸専攻卒業。河島浩三、喜信氏に師事。2012年G-studio設立。「中村譲司 陶展」(伊勢丹新宿店本館 2017年ほか)など、毎年精力的に個展を開催している。主な受賞歴に、第3回日本陶磁器協会奨励賞関西展(2018年)、第46回青窯会作陶展京都府知事賞(2013年)などがある。世界のタイル博物館(愛知県)、法然院(京都府)などに作品が収蔵されている。

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