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京畳
イグサ特有の香りをかぐと、一瞬にして心が和らぐのはなぜだろうか。それが畳であれば、自然と横たわりたくなるのだから不思議だ。
「畳があると安心するのは、日本人のDNAに入っているんですかね」と、西陣にある「太田畳店」の3代目・太田成樹が話す。イグサのゴザ「畳表」、縁(へり)、土台となる床(とこ)をそれぞれの産地や材料商から仕入れ、依頼された部屋の寸法に合わせて畳をつくるのが、この店の仕事だ。
太田畳店では従来的な畳をつくるのはもちろん、5、6年前より新たに「琉球畳(半畳縁なし畳)」も扱い始めた。縁がない正方形の畳で、和紙を素材とするためカラーバリエーションも豊富。現代的な装いでありながら、畳の良さも感じられるとして近年人気を集めている。しかし、太田が事業を継いだ20年前は「畳はダサいもの」と認識され、フローリングに替える家も多かったという。需要は減ったが、再びその安心感を求めて畳を希望する人も徐々に増えてきている。太田は職人として、畳とどう向き合っているのだろうか。
太田畳店では代々、京都の材料商からゴザを仕入れてきたが、その品質に疑問を持っていた。産地として有名な熊本の問屋に連絡をとり、仕入れてみると、比べものにならないほど質がいい。その時まで畳にさまざまな種類やランクがあることも知らなかったため、勉強もしたという。イグサ農家と良い関係性を築くため、産地に行き、作業を手伝うことも始めた。
本来、畳は使用するゴザによって細かにグレードが決まっており、値段も千円ずつ異なる。ところが太田畳店では値段と、品質の違いが明確。「欲しい人が選びやすいように」という心遣いからだ。一度は国産にこだわったが、今は単価の低い中国産のゴザも提案している。顧客の予算に合う選択肢を増やしたいからだ。
「子どもが遊ぶ部屋に畳を敷きたいと依頼されたら、僕は大概安価なものを勧めます。お子さんが小さいうちは傷みやすいので、その都度変えたら綺麗になりますよ、と。お子さんが大きくなってからは長く使えるものを提案したり」
時代とともに変わりつつある畳の魅力とはどこにあるのだろうか。
「畳は一番簡単にできる“リフォーム”だと思うんです。畳を変えるだけでパッと部屋の雰囲気が変わる。フローリングを変えようと思ったら板を剥がしてと大変なんですけど、畳だと一日で終わります」
過去の畳職人の間では「畳に合わせて部屋をつくるべき」という考えが普通だったが、今は反対だ。「畳が今の家に合わせたらいいんです」とあっけらかんと太田は話す。近頃はフローリングしかない家でも使えるような「置き畳」も、よく手掛けるという。そのほかに「赤ちゃんが畳の上だとよく眠る。でも、家に和室がない」という方の要望に応えようと、畳版プレイマットのような製品「coteri(コテリ)」も開発したばかりだ。
「僕の座右の銘は『不易流行』なんです。本質はそのままで、新しいことを取り入れていくってことですね。なので、材料に対しても新しいものが出てきたら、対応できるように努力したいと思っています」
太田畳店
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◉太田 成樹(おおた・しげき)
1980(昭和55)年生まれ。1939(昭和14)年に創業した「太田畳店」の3代目を務める。住居に合う畳はもちろん、仏具である「四天拝敷(してんはいしき)」や、フィギア用のミニ畳など手がけるものは多岐にわたる。子ども向けに畳ワークショップを開くなど、育成事業も積極的に行っている。
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