Kyosudare Kawasaki
京すだれ
平安時代、宮廷や屋敷では間仕切りや目隠しとして、寺社仏閣では聖域と俗界を隔てる結界として、御簾(みす)は重要な役割を果たす調度品であった。現代ではすだれとして、屋外用、室内用、建具など、暮らしの中でさまざまな用途に使われている。
「京すだれ川崎」は、すだれを手で編む工匠がいる数少ない工房だ。国内外から調達した葭(よし)、竹、真菰(まこも)などの天然素材を糸で編み、御簾、すだれ、照明、雑貨など、さまざまな工芸品を手がけている。
「昔はただすだれを作っていればよかったんですが、時代が変わりました。今は自分たちからアピールする必要があるし、何でもしないといけません」
代表の川﨑音次は、作業の手を止めることなくやわらかい表情でそう語る。無数の原材料から良材を見極め、同じ太さや柄のものを選別する作業はすだれの出来を左右する要となり、今でも基本的に川崎が行う。その後スタッフらと分業し素手で皮を取り、1本1本の反りを爪で整え、手編みもしくは年代物の編み機を使用しながら、手作業ですだれを編み上げて行く。
京すだれは、編み方や糸の種類、材料の選別が他と異なるのが特長で、手作りのすだれのほとんどが京都で制作されている。老舗が多い京都で、京すだれ川崎は「新参者」として自社の強みを作るべく、「できることは何でもやろう」という精神で新しい取り組みに精を出してきた。色付きのすだれを制作したり、糸の種類を変えたり、編み方や糸の出方を変えたりした結果、現在すだれだけでも何百種類にも及ぶ。和紙風の樹脂と遮熱生地を編み込むことで、通気性を保ちながらも透けないすだれも考案した。一説によるとすだれの「す」には「透ける」という意味もあるそうで、画期的な試みに周囲からとても驚かれたという。早くからオンラインショッピングを取り入れたこともあり、世界各国から定期的に受注がある。
一方で、古くからの素材や技法を大切にする志は変わらない。代表が丁稚修業をしていた頃はすだれを麻糸で編んでいたそうで、昔に回帰しようと数年前からは特注した麻糸も使用している。すだれを掛けるための取り付け材や欄間を作る職人が減り、入手が難しくなるなか、自作販売してその風趣を守る。
すだれの原材料のひとつである葭(よし)は湖や河川に生息し、水質や環境保全の機能を持つが、定期的に刈り取るなどの管理をしないと良質の葭が生えてこないと言われている。都市開発や環境の変化により良質の葭が減り確保が難しくなっている中、京すだれ川崎では保全のためにも積極的に葭を使い続け、先々を見据えて5〜10年分確保している。時代を見据えて気長に取り組んでいくのは、後継者育成も同様だ。
「若い人に楽しんで仕事をしてもらえるよう、仕事の体制を変えていかなあかんのです。『日本の文化っていいな』と思った時には作れる人がいなくなっている、なんてことにならないようにしないといけない。ものを作るには心が豊かで見識がないといけない。見る目を育てていかないと」と川崎は言う。
葭を守ること、そして次世代の作り手を育てることが、すだれを守り、ひいては文化を守り育てることになる。取材の日はアメリカへの納品が間近ということで、川崎の二人の娘を含む数人のスタッフたちがきびきびと働いていた。手作業から生まれるすだれは、私たちの暮らしを陰に日向にこれからも守っていってくれることだろう。
京すだれ川崎
Kyosudare Kawasaki
◉京すだれ川崎
代表・川崎音次が京都市内の老舗すだれ店での11年間の丁稚(でっち)修業を経て、1972年に京都市右京区嵯峨野にて独立。1988年に現在の地、京都府亀岡市千代川町に移転する。イギリスのデザインフェスティバル「テントロンドン」(2013年)などに出展。主な受賞歴に「京都デザイン賞」入選(2010、2014、2016年)などがある。「京の名工(京都府伝統産業優秀技術者)」表彰(2017年)。