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小嶋庵

Kojima-an

提灯

移住という新たな挑戦

 

 

京丹後市網野町、澄き透る海と白い砂浜が美しい八丁浜から歩いてすぐ。「海辺のちょうちん屋さん」と銘打たれた大きな提灯を掲げる工房・小嶋庵は、2021年に日本海の海辺に産声を上げた。

同年に京都市内から家族で移住し、小嶋庵を立ち上げた小嶋俊は、二百年以上の歴史を持つ京提灯の老舗・小嶋商店の9代目の長男として生まれた。高校卒業後、祖父が病気になり父が一人で仕事をしている姿を見て「自分がなんとかしたい」と思い、父の下で提灯職人として修業する。時流もあり売上が減少していくなか、経営を立て直すべく直接販売を開始したり、弟とあかりのブランド「小菱屋忠兵衛」を立ち上げ、提灯を室内照明として展開するなど新たな道を開拓した。

2018年に小嶋商店の法人化と同時に代表取締役となり、事業は順調に軌道に乗ったもののその分責任も増し、以前のように新しいことにチャレンジすることが難しくなった。これでいいのかと自問自答することが増えるなか、妻の母の故郷であり、十数年前からよく遊びに来ていた網野を家族とともにコロナ禍に訪れたとき、ふとひらめいた。

「子どもたちが網野でとても楽しそうにしている姿を見て、移住して工房をつくろうと決意しました。子どもももうすぐ思春期にさしかかるし、今しかないと思った。僕は変わっているというか、いつも確実じゃない方を選ぶタイプ。移住したいと伝えたとき、父も弟も『またなんか言うてる』みたいな感じでした(笑)」

 

移住のためにクラウドファンディングに挑戦し、目標金額を100万円以上回り見事達成。当初は心配していた周囲も応援してくれるようになり、元機織り工場だった古民家を改装して一年前に自宅兼工房をオープンした。現在は小嶋商店と分業し、京提灯の骨組みとなる竹ひごを作るため、竹を細く割る「竹割り」を主に担いながら、「ちび丸」という手のひらサイズの提灯をつくる体験教室も行っている。提灯や室内照明はもちろん、提灯の技法でつくった一輪挿しなどのインテリアも取り扱う。

「今はまだ根を張るのに必死ですが、こちらの人はとてもあたたかくて、みなさんに受け入れて頂けたことが本当にありがたいです」

京丹後は地域のお祭りが多く、毎年7月30日に行われる水無月祭では神輿を担いだ。

「花火もあって、みんなそのお祭りを一年の楽しみにしている。お祭りであらためて提灯を見て『提灯が軒に並ぶ風習が無くならないためにはどうしたらいいのか』と考えるようになりました。今後お祭りの提灯を作ってほしいと頼まれたら、それに応えられるような体制を小嶋庵で作りたい、それを京丹後でつなげていきたいというのが今の目標です。小嶋商店ではかっこいい提灯をつくろう、今まで提灯がなかったところに提灯を使ってもらえるようにしよう、という思いでやっていたのですが、小嶋庵では今ある提灯の文化を守っていこうと考えている。自分でも同じ人間かな、と思います(笑)」

現在小嶋庵では、体験教室に参加した人や近所の住民がパートタイムで工房で働いている。提灯づくりの種は少しずつ網野町で芽を出しつつあるようだ。

 

 

子どもやご近所が立ち寄る工房に

 

 

新しい環境になって一年、最近は「お金だけではない豊かさや、暮らすということについて考えさせられる」と言う。家族との時間、地域とのつながり、文化を思う気持ちなど、年々大切なものは増えていく。バランスの取り方を模索しながら「どれくらいの速度で走っていくか」を探している最中だという。子どもを地域みんなで見守っていくことも大切にしたいことのひとつだ。
「僕はものづくりが好きというより、小嶋商店の提灯と工房が好き。じいちゃんと親父と近所のおばちゃんが提灯を作ってるところに、僕ら兄弟が帰ってくるような、あの感じを小嶋庵でも作れたらと思います。子どもや近所の人がふらっと立ち寄ってくれるような工房にしたい」

その言葉を聞いたときに、俊の父・護がこう話していたことを思い出した。「僕の親父は仕事ばかりで遊んでもらえなかったので、自分が育ってきた環境とは違う環境で子どもを育てたいと思いました。息子たちと関われることが嬉しかった。『よそで悪いことせんとウチにおいで』と言い、息子たちの友達もよく来ていました」

俊の原風景である小嶋商店の工房は、今の俊と同じように護が模索して生まれたものなのかもしれない。

取材の日、俊が着ていた小嶋庵のユニフォームTシャツには「SUKI NA BASHO DE HONPOU NI」と書かれていた。「好きな場所で奔放に」──自分の感性を信じ、大切なものを守り育て、新たな道を開拓していく者こそが、文化のともしびをつなげていくのかもしれない。

 

◉小嶋庵の作品はこちら

 

小嶋庵

Kojima-an

◉小嶋庵

京丹後の海辺の提灯工房。海と山の自然豊かな地で提灯の新しい在り方を模索。「暮らす」ということに向き合い、生活の中に暖かな明かりを灯し、みんなの笑顔を作る。そんな提灯作りを目指している。

 

小嶋 俊(こじま・しゅん)

1984年京都市生まれ。高校卒業後、家業の小嶋商店に従事し提灯職人として修業する。妻、娘、息子2人とともに2021年京丹後市網野町に移住、小嶋庵を立ち上げる。

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